第28回
仕組み化より先に「理想の完成形」を1つ——模範解答という近道
芳村裕太 · LLC Rip.D
- 営業マネージャー
- AI
- 業務効率化
地方中小企業の AI 導入・活用支援をしているLLC Rip.D(リップ)代表の芳村です。
このブログは営業チームのマネージャー・経営者さまに向けて書いています。
営業領域20年超の現場経験とプロのエンジニアのもとで学んだ AI に関する専門的な知見を融合して、事業活動のお役に立つ情報を「現場の言葉」でわかりやすくお伝えしています。
お客様への問い合わせ対応や、週次の報告資料をAIに任せる仕組みを作ろうと決めたとき、多くの人がまず考えるのは「手順書を作ろう」「AI用のマニュアルを整えよう」ということではないでしょうか。
真面目な人ほど、この発想になりがちです。丁寧にルールを書き並べれば、AIはきっとその通りに動いてくれるはずだと。
ところが、いざ手順書を作り込んでも、出てくるものがしっくりこない。ルールを足せば足すほど、逆に的を外れていく——そんな遠回りをしてしまうことがあります。
この記事でわかること
- 「仕組み化」から入ると遠回りになりやすい理由
- 理想の完成形は、一から書かなくていいという作り方
- それでも結果が微妙なときに、大がかりな仕組みより先に試すこと
いきなり「仕組み化」から入ると遠回りになる
結論からお伝えします。繰り返しの業務をAIに任せたいとき、最初にやるべきは手順書作りではありません。まず「これが理想」と言える完成形を1つ用意することです。
AI用の手順書やマニュアル(Skillと呼ばれることもあります)は、繰り返しの作業をAIに安定して任せるための仕組みです。これはアプリ開発のようなエンジニアだけの専有物ではなく、「こういうときはこう返す」という言葉の設計図を書いてAIが読める場所に置くだけのもの。とはいえ簡単というわけでもなく、非エンジニアでも実際に手を動かし、育てていく前提のものだと捉えておくとちょうどいいと思います。土台になる「理想の完成形」がないまま手順書だけを整えても、AIは何を目指せばいいのか分からないまま、それらしいものを返してくるだけになります。
手順書より先に、AIが欲しがっているもの
AIに何かを頼むとき、条件を細かく書き並べるほど精度が上がると思われがちですが、実はそうとは限りません。AIには、一度に処理できる情報の量に限界があるからです。
一方で、「これと同じトーンで書いて」と理想の完成形を1つ渡すだけで、驚くほど精度が上がることがあります。手順書というルールの集合体より、具体的な実例1つのほうが、AIにとってはるかに分かりやすい手がかりになるのです。問い合わせ対応の返信メールでも、提案書でも、週報でも同じです。細かい条件を並べる前に、「これが理想」と言える実例が1つあるかどうかで、AIの返してくるものの質は大きく変わります。
理想の完成形は、一から書かなくていい
「そんな理想的なものなんて、うちにはない。一から書くのも時間がかかる」——そう感じる方も多いと思います。ですが、これもゼロから書き起こす必要はありません。
作り方の順番はこうです。まずAIに雑に1回頼んでみて、たたき台を出してもらいます。細かい条件はまだ考えなくて構いません。次に、そのたたき台をもとに、自分の手で仕上げていきます。ある程度まではAIとやり取りしながら進めても構いませんが、最後の詰めの部分は、人間が手を動かしたほうが早いことが多いものです。こうしてできあがった完成形を見本として渡せば、以降は同じ水準のものをAIが量産してくれるようになります。
1つの完成形だけでは対応しきれないケースが出てくることもあります。その場合は2〜3個まで増やしてもいいですが、数を増やすことより、今ある完成形をより洗練させることを優先してください。実際にAIに使わせてみて、「ここが理想と違った」と気づくこともあるはずです。その気づきをもとに、少しずつ磨いていけばよいのです。
それでも結果が微妙なときは、大がかりな仕組みより先に試す
完成形を渡しても、AIの出力がたまにしっくりこないことはあります。ここで「もっとちゃんとしたものにするには、細かくチェックする仕組みを作らないと」と考えて、条件を自動で判定するような複雑な仕組みづくりに時間を使い始めるのは、よくある遠回りです。
改善の手には、軽いものから重いものまで段階があります。一番軽いのは、見本をもう1つ増やすことです。それでも足りなければ、AIへの伝え方を少しだけ整えます。それでも難しければ、他の人やAIに見てもらう方法もありますが、これには注意点があります。レビューでは、今あるものへの改善案はもらえても、「そもそも根本から違うやり方のほうがいいのでは?」という提案は出てきません。お弁当のレビューを頼んで「もっと野菜を増やしたほうがいい」とは言われても、「そもそもサンドイッチのほうがいいのでは」とは言われないのと同じです。それでもうまくいかない場合に初めて、自動でチェックする仕組みづくりを検討する——ここまで来て、ようやく重い手の出番です。
大事なのは、軽い手から順に試すこと。いきなり複雑な仕組みに手をつけるのではなく、まず見本を1つ足すところから始めれば、多くの場合それで十分に解決します。
今日から始める小さな一歩
過去に自分やチームが作った資料やメールの中から、「これは良かった」と思う1つを選んでみてください。返信メールでも、提案書でも、週報でも構いません。
次にAIへ同じ種類の仕事を頼むときは、条件を書き並べる代わりに、その1つを「これと同じ調子で」と見本として渡してみてください。もし出てきた結果がまだ微妙だと感じたら、複雑な仕組みを考える前に、まず見本をもう1つ足せないか考えてみましょう。
まとめ
繰り返しの業務をAIに任せたいとき、最初の一歩は手順書作りではなく、「理想の完成形」を1つ用意することです。それはゼロから書かず、AIのたたき台を土台にすればいい。結果が微妙なときも、大がかりな仕組みより先に、軽い一手から試してみてください。
ルールを増やすより、良い実例を1つ持つほうが、AIには伝わりやすい——これが今日の takeaway です。
